
技術コラム
ポンプの周辺知識クラス
【B-7】
マグネットカップリング
ポンプの周辺知識のクラスを受け持つ、ティーチャーサンコンです。
磁力を利用して動力伝達し、液漏れのない「マグネットカップリング(磁気継手)」についてお話しします。
ポンプを動かすためには、モーターなどで外部から動力を伝達する必要があります。モーノポンプのような回転式ポンプの場合、一般的にはポンプとモーターの軸同士を接続して、モーターの回転をポンプに伝達します。モーター軸に接続するために、ポンプ軸はポンプケーシングを貫通して外側に飛び出す形になっています。この貫通部からポンプ内の液体が外部に漏れてしまうので、液漏れを抑える軸封装置が備えられています。
ただし、軸封装置は液漏れを完全に止めるものではありません。回転軸と摺動しながらシールするグランドパッキンはもちろん、高精度な軸封装置であるメカニカルシールであっても同様に、液漏れは発生します。
しかし移送液のなかには、それ自体が危険であったり、周囲を腐食させるなどの悪影響を及ぼしたりするため、液漏れが許されないものがあります。例えば、消毒用の次亜塩素酸ソーダなど浄水場で使用される薬液がそうです。
このような液体を移送する際に適しているのが、磁力を利用して動力伝達し、液漏れのない「マグネットカップリング」です。今回は、ポンプでよく使用される外輪・内輪タイプのマグネットカップリングについて解説します。
1.マグネットカップリングの基本構造
外輪
ポンプ外部(大気側)でモーター軸と一体になって回転する。円筒状になっており、内壁に磁石が配列されている。
内輪
ポンプ内部の液中をポンプ軸と一体になって回転する。円柱状になっており、曲面の外表面内部に磁石が配列されている。
回転軸が貫通しておらず、隔てられた状態の外輪と内輪の間に磁石の引力・斥力が発生し、それによって動力伝達することができるため、「漏れないポンプ」を実現することができます。
2.使用される磁石の種類
磁石には、大きく分けて永久磁石と電磁石がありますが、マグネットカップリングに使用されるのは主に永久磁石です。永久磁石にも、原料の違いでいくつかの種類があり、広い用途で使われているフェライト磁石や、学校教材で使用されるアルニコ磁石などが挙げられます。
従来、マグネットカップリングに使われるのはフェライト磁石が主でしたが、磁力が弱く、十分な伝達動力を得るには装置を大型化する必要がありました。近年では、より大きな磁気エネルギーを持った希土類磁石が使用されるようになってきています。なかでも、携帯電話からハイブリッドカーまで幅広い業界で使用されているネオジム磁石は特に磁力が強く、装置の小型化に寄与します。
3.マグネットカップリングの軸受
マグネットカップリングがスムーズに動力伝達を行うには、外輪と内輪がある程度の同軸度を保持しながら回転することが求められます。それを実現するのが、回転軸を支持する軸受(ベアリング)です。
外輪側は、モーターの軸受を利用するなど、一般的な軸受が使用されます。一方、内輪側は、受ける荷重方向によりラジアルベアリング、スラストベアリングと呼ばれる軸受を設けます。液中に浸漬した状態で使用されるため、「すべり軸受」が使われることが多いです。
マグネットカップリングを必要とする移送液は、上述のとおり危険液や腐食性の高い液体なので、軸受にも高い耐食性が要求されます。材質としては、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)、セラミックスなどが使用されます。危険液・腐食液に長期間浸漬した状態になるため、化学変化にも対応した材料が求められることから、例えばエンプラは、特殊な配合で強度UPさせた特殊樹脂が使用される場合があります。用途によりさまざまな材料が使用されますが、経年的に摩耗や化学変化を受けるため、定期的なメンテナンスが必要です。
4.選定する際の注意事項
マグネットカップリングは液漏れがなく高機能なカップリングですが、選定には以下の点で注意が必要です。
トルク
磁力によって予め設計された伝達トルクがあり、それを超えると動力伝達できなくなります。(脱調現象)
移送液の粘度
粘度が高いと、内輪表面に移送液の粘性摩擦トルクが発生し、伝達動力が低下してしまいます。
移送液の温度
高温環境下で使用されると磁力が落ち、伝達動力が低下してしまいます。
圧力
各種部品の耐圧を確認する必要があります。
スラリー
ベアリングの隙間に固形分が入り込んで摩耗させてしまいます。
そろそろ時間ですね!最後にまとめをしておきましょう!!
本稿のまとめ

- マグネットカップリングを使用することで、「漏れないポンプ」が実現できる。
- マグネットカップリングは、強い磁力の希土類磁石を使用することで小型化が可能。
- 回転をスムーズに伝達する軸受が必要で、危険液・腐食性の高い液体での過酷な使用に耐える特殊材質が使われる。ただし、摩耗や化学変化を受けるため定期的なメンテナンスが必要。
- マグネットカップリングには、トルク、移送液の粘度・温度、圧力、スラリーなどの制限があり、選定時には注意を要する。
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