技術コラムA教室ポンプの基礎知識クラス

【A-4b】
NPSH(Ⅱ)

ポンプの基礎知識のクラスを受け持つ、ティーチャー モーノベです。
前回は、「NPSH」について説明しましたが、今回は「NPSH」を利用して、具体的にポンプ選定する練習をしてみましょう!液質や使用条件によって移送可否の判断が異なってきますので、実際の判断にお役立て下さい。みなさんついてきてくださいね。

NPSHの判定具体例

具体的に下記のようなケースについて、使用可否の判定作業をしてみましょう!
まずは前回の講義で説明した一般的なケースです。

【例1】ポンプから7m下のピットにある水を吸い上げる場合(図1参照)

  1. ポンプメーカーから、ポンプ入口でのNPSHreq=2.3(m)と提示。
  2. ポンプの使用条件から、NPSHava=(大気圧)-(深さ)=10.3-7.0=3.3(m)
  3. 判定は、NPSHava(3.3m) >  NPSHreq(2.3m)となり、OK。

図1 ポンプで水を地下ピットから吸い上げる場合

通常は、上述の方法で判定すれば良いのですが、「液の温度が高い場合」や、「液の粘度が高い場合」には、別の要因についても考慮する必要があります。

特殊なケース1:液の温度が高い場合には、蒸気圧に注意!!

液の温度が高い場合、液が気体(ガス)になろうとする力が無視できなくなります。その力は、一般に「蒸気圧」と言われており、たとえば、水が100℃の場合、蒸気圧は大気圧(水換算ヘッド10.3m)に等しくなり、おなじみの沸騰が起こります。参考に、水温と蒸気圧とのイメージ図を、図2に示します。このような場合のNPSHavaは、蒸気圧の分だけ減ることになります。

図2 水温と蒸気圧の関係イメージ図

【例2】ポンプから7m下のピットにある60℃の温水を吸い上げる場合(図3参照)

  1. ポンプメーカーから、ポンプ入口でのNPSHreq=2.3(m)と提示。
  2. ポンプの使用条件及び60℃の水の蒸気圧(水換算ヘッド2.0m)から、
    NPSHava=(大気圧)-(蒸気圧)-(深さ)=10.3-2.0-7.0=1.3(m)
  3. 判定は、NPSHava(1.3m) < NPSHreq(2.3m)となり、NG。

図3 ポンプで60℃の温水を地下ピットから吸い上げる場合

特殊なケース2:液の粘度が高い場合には、流れ抵抗に注意!!

液の粘度が高い場合、液が吸込管内を流れにくくなり、吸込力の一部が流れ抵抗のためロスとなり、NPSHavaはその分減ることになります。流れ抵抗がどれくらいのロスになるかは、流体理論などから推定することが可能です。

【例3】ポンプから7m下のピットにある高粘度液を吸い上げる場合(図4,5参照)

液が吸込配管を上昇する間に、流れ抵抗が液換算ヘッドで、1.5mあると推定される場合。

  1. ポンプメーカーから、ポンプ入口での液換算 NPSHreq=2.5(m)と提示。
  2. ポンプの使用条件から、NPSHava=(大気圧)-(深さ)-(吸込配管内流れ抵抗)=10.3-7.0-1.5=1.8(m)
  3. 判定は、NPSHava(1.8m) < NPSHreq(2.5m)となり、NG。

図4:ポンプで高粘度液を地下ピットから吸い上げる場合、図5:液の粘度と吸込配管内流れ抵抗の関係イメージ図

液の粘度が高くて、高温の場合には、蒸気圧と流れ抵抗の両方を考慮する必要があります。

以上をまとめますと、一般に、NPSHavaは下記の式で求められます。なお、この式で得られる値は、前述しましたように移送液換算ヘッドであり、水換算ヘッドではないので注意が必要です。

[NPSHava]=[液面の圧力]-[蒸気圧]-[液面までの深さ]-[吸込配管内流れ抵抗](m)

復習事項

前回説明しましたので復習になりますが、「ヘッド」とは、通常、MPa(メガパスカル)の単位で表わされる圧力を、液の高さで何m(メートル)に相当するかに換算して表した値で、単位は「m(メートル)」です。人間の「head=頭」とは何の関係もないですが、この分野では、日本語でやはり、「水頭(すいとう)」と言われています。

一般に、「ヘッド」は水の高さで表す場合が多いので、このように「水頭」と言われますが、下記のように、液の密度により「ヘッド」は異なりますので、注意が必要です。たとえば、大気圧(空気の力)は、通常は、次のような関係になります(水とエタノールは密度が異なるため)。

0.101(MPa)=[水換算ヘッド]10.3(m)=[エタノール換算ヘッド]12.9(m)

水とエタノールでの大気圧の換算ヘッドの違いの説明図

そろそろ時間ですね!最後にまとめをしておきましょう!!

本稿のまとめ

  • 移送可否の判定をする際、1.移送液の温度が高い場合の蒸気圧、2.移送液の粘度が高い場合の流れ抵抗に留意する必要があることです。
  • また、移送液の密度が異なると、1気圧=10.3mの数値が異なることにも注意が必要です。

ポンプの吸込性能を判定する際には、以上の点に注意しましょう!!

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