
技術コラム
ポンプの周辺知識クラス
【B-2e】
駆動機(変速装置・減速装置)
ポンプの周辺知識のクラスを受け持つ、ティーチャーサンコンです。
今回は駆動機の基礎知識、最終回です。皆さんついてきてくださいね。
駆動機を必要かつ最適な回転速度に調整するための「変速装置・減速装置(以下、変・減速装置と表記します)」についてご説明します。
変・減速装置はなぜ必要か?

回転機械は、用途等によってそれぞれ最も効率よく稼働できる特定の回転速度(範囲)があり、モーターにも最も効率よく運転できる出力回転速度があります。回転機械の必要回転速度は、モーターの出力回転速度より低いのが一般的です。従って、回転機械が必要とする回転速度とモーターの出力回転速度を合わせるためには変・減速する装置が必要です。ここでは変・減速装置を一括して説明します。
減速装置の出力回転速度は、減速比によって決まりほぼ一定ですが、変速装置の出力回転速度は一定の範囲内で変えることができます。変速装置の中で、接触断面の回転速度の差を利用した摩擦伝導機構を持ち、ハンドル等の操作によってモーターの回転速度をある範囲内で(無段階に)変速できるものを特に「機械式(無段)変速機」と呼びます。
ちなみにモーノポンプでも無段階で変速できる機械式変速機が多く使われています。変・減速装置を使うことにより回転速度が下がる分、トルクは上がることからモーター容量を小さくできる一方、変・減速そのものに若干の損失を伴うので、その伝達効率は100%未満になることと、回転速度の調整幅には上下の限界があることに注意が必要です。
変・減速機の種類
大別すると主な変・減速装置には次のような種類があります。
最近では、据付が簡単で設置面積が小さくてすむため、モーターを減速機から離して置く従来の形から、モーターと減速機を直結した一体形の装置が主流となってきています。
減速機付モーターの構造
減速機付モーターとは、モーターと減速機を一体構造にしたもので、取り付けを簡素化したコンパクトな駆動機です。減速機を使うことで効率的に低速回転を得られるとともに、いわゆる倍力装置として高トルクが得られます。
減速機付モーターにも色々な種類がありますが、工業用ポンプでよく使用されている減速機付モーターとして、「歯車減速機付モーター(サイクロ®減速機付モーター:住友重機械工業株式会社製)」、「ギヤードモーター(三菱電機株式会社製)」の構造を示します。
機械式無段変速機の原理と構造
機械式無段変速機は、接触斜面の回転速度の差を利用した摩擦伝導により、汎用かご形モーターの一定回転速度入力を無段階で変速出力する機構を備えた変速機で、その代表的なものとしてはディスク形とコーン形があります。
ディスク形の代表的機種がバイエル®無段変速機(住友重機械工業株式会社製)で、数枚の薄い円錐形の摩擦板(コーンディスクとフランジディスク)を互いに噛み合わせて動力を伝達するもので、変速は変速ハンドルにつながるコーンディスクの出し入れによって行われます。
一方コーン形の代表的機種がリングコーン®無段変速機(日本電産シンポ株式会社製)で、コーンと入力軸につながる入力円板との接触による自転と、外側のリング内における公転の遊星差動回転を、出力側のカムディスクに取り出すもので、変速はリングを軸方向に移動させることによって行ないます。
機械式無段変速機は、その機構から同じ噛み合わせ位置で運転を続けると多少摩耗しますが、手軽な変速装置であり、小型のものは産業用ポンプにおいてもよく使われています。なお、ディスク形はその構造ゆえに変速範囲が制限されるのに対し、コーン形は0(ゼロ)速まで出力できること、すなわち変速範囲が無限大であることが特長です。
そろそろ時間ですね!最後にまとめをしておきましょう!!
本稿のまとめ

- 変・減速装置は、回転機械が必要とする回転速度とモーターの出力回転速度を合わせるために必要な装置である。
- 据付が簡単で設置面積が小さくてすむため、減速装置と駆動機を一体にした減速機付モーターが主流になっている。
- 機械式無段変速機は、モーターの一定回転速度入力を無段階で変速出力する機構を備えた変速機で、ハンドル等で簡単に出力回転速度を変えられる。
いずれにせよ、目的・用途にあった減速装置を選択することがもっとも重要です。
5回シリーズでお届けした「駆動機の基礎知識」は、今回で説明を終わります。
おっと、長くお付き合いをいただいたのでちょっとした息抜きを兼ねた周波数に関する番外編を用意しました。【番外編:周波数】
サイクロ、サイクロ減速機、バイエルは住友重機械工業株式会社の登録商標です。
リングコーンは日本電産シンポ株式会社の登録商標です。
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ひとくふう
モーノポンプの使い方は現場によりさまざま。
ひとくふうを加えると、
実はおもしろい発見が!