ポンプの基礎知識のクラスを受け持つ、ティーチャー モーノベです。
今回はステンレス鋼の腐食のさまざまな形態について、掘り下げて説明したいと思います。
ステンレス鋼の腐食について話す前に、まずは金属の腐食のしくみについて鉄を例に説明します。腐食とは金属が使用環境において、電気化学的な反応によって侵食される現象のことをいい、酸化反応(アノード反応)と同時に還元反応(カソード反応)を伴います。
腐食が進行する際、鉄(Fe)は鉄イオン(Fe2+)となって溶液中に移行するとともに電子(2e-)を放出します(1)。
これに対して、pHが低く、水素イオン(2H+)が十分存在する場合には、水素イオン(2H+)は鉄(Fe)がイオン化した時に放出した電子(2e-)を受け取り、水素ガス(H2)となります(2)。
また、pHが中性近辺の場合には、反応の主体は溶液中の酸素(1/2O2)となって、電子(2e-)を受けとり、水酸化物イオン(2OH-)となります(3)。
これが金属の腐食のしくみで、電池作用や腐食電池と呼ばれます。
中性溶液中で鉄が腐食する場合を考えると、腐食の全反応は(1)と(3)の式の和として得られます。この場合、イオン化した鉄(Fe2+)と水酸化物イオン(2OH-)が結合し、水酸化第一鉄(Fe(OH)2)が析出します。また析出した水酸化第一鉄(Fe(OH)2)は溶液中の酸素(1/2O2)によって酸化され、水酸化第二鉄(Fe(OH)3)となり、赤さびのもととなります。
ステンレス鋼が酸化皮膜(不動態皮膜)の形成により優れた耐食性を示すことは前回の講義ですでにお話ししていますが、ステンレス鋼であっても適さない環境や用途では腐食が進行しますので、注意が必要です。
ステンレス鋼の腐食形態は、全面腐食と局部腐食に分けられます。全面腐食は塩酸や希硫酸にさらされるなど、不動態皮膜ができにくい環境で発生します。メカニズムとしては、最初に説明した、アノード反応・カソード反応と同じです。一方、局部腐食とは、環境条件によって局所的に不動態皮膜が破壊されることで発生する腐食です。特に塩化物イオンの存在により、局部腐食は進行します。
ステンレス鋼の局部腐食には以下の種類があります。
孔食は、表面が局部的に点、または孔状に深く侵食される現象です。溶液中の塩化物イオンの影響で、ステンレス鋼の表面に付着した異物などを起点として、局所的に不動態皮膜が破壊され、その部分がアノード反応、他の部分がカソード反応となって局部電池をつくり、その位置が固定されて継続的に進行する場合に発生します。
すきま腐食は、フランジの接合部、パッキンの合わせ目、ガスケットのすきまなど、液が停滞しているところで腐食が孔食状に進行する現象です。すきまの内部では、酸素の供給が不十分となり、外部との間で酸素濃度に差が生じます。
すきま内部の酸素濃度の低い方がアノード反応、高い方がカソード反応となり、アノード部から溶ける、いわゆる酸素濃淡電池に起因して、塩化物イオンの存在下で不動態皮膜が破壊されます。
孔食やすきま腐食を完全に防ぐことはできませんが、さらされる環境条件を考慮して適正な材質選定を行うことで、防止対策を行います。ステンレス鋼の種類と特徴については前回の講義をご覧ください。
前号でも紹介している通りですが、ステンレス鋼を約500~800℃に加熱すると、その近辺でクロム炭化物(Cr23C6)が析出し、クロム(Cr)が欠乏状態となります。クロム(Cr)が少ないと、耐食性が低下するため、そこから腐食を生じる現象が粒界腐食です。また、このクロム(Cr)欠乏状態のことを鋭敏化とも言います。
溶接部付近などは熱影響で特にこの鋭敏化を起こしてしまうため、溶接を実施する場合には、SUS304LやSUS316Lなどの低炭素材を用いることで、鋭敏化を防止します。
鋭敏化や孔食の腐食条件下において、溶接による残留応力などの力が働いていた場合に生じます。この場合、かかる応力が材料降伏点以下であっても、腐食環境下で脆化を起こしてしまうため、割れに至ります。また、この割れを起点とし、不動態皮膜が破壊され、腐食を進行させてしまいます。
応力除去焼なましなどで残留応力を軽減したり、使用環境から溶存酸素や塩化物イオンを除去することが防止対策となります。
このように、ステンレス鋼の腐食にはさまざまな形態があります。ステンレス鋼はその特性から、高い耐食性を求められることが多いですが、前号で紹介したステンレス鋼の種類や特徴と共に、さらされる環境条件、腐食形態を想定することで、より適正な材質選定ができます。
そろそろ時間ですね!最後にまとめをしておきましょう!!
次回はチタンやハステロイ®などの非鉄金属について、説明する予定です。