ポンプの基礎知識のクラスを受け持つ、ティーチャー モーノベです。
今回は、読者のみなさんがよく検索される用語のひとつである「NPSH」について説明します。「NPSH」は、ポンプの吸込性能を評価する際に使用する数値で、ポンプの選定には欠かせない数値です。みなさんついてきてくださいね。
「NPSH」とは、Net Positive Suction Headの略であり、日本語では「正味吸込ヘッド」などと呼ばれており、ポンプの吸込性能を評価する際に使用する数値です。NPSHには次の2つがあり、ポンプで液が吸込可能か否かの判定に利用されます。
吸込可能性の判定は、この2つの大小を比較し、次のように判定します。
ポンプの「吸い込みって何?」という疑問をお持ちの読者は、こちらのコラムを参照下さい。
「ヘッド」とは、通常、MPa(メガパスカル)の単位で表わされる圧力を、液の高さで何m(メートル)に相当するかに換算して表した値で、単位は「m(メートル)」です。人間の「head=頭」とは何の関係もないですが、この分野では、日本語でやはり、「水頭(すいとう)」と言われています。
一般に、「ヘッド」は水の高さで表す場合が多いので、このように「水頭」と言われますが、下記のように、液の密度により「ヘッド」は異なりますので、注意が必要です。たとえば、大気圧(空気の力)は、通常は、次のような関係になります(水とエタノールは密度が異なるため)(図1参照)。
0.101(MPa)=[水換算ヘッド] 10.3(m)=[エタノール換算ヘッド] 12.9(m)
NPSHの使い方の具体例として、一般的な地下ピットの水をポンプで吸い上げる場合を、考えてみましょう(図2参照)。
仮に液面が地下7mの場合に、ポンプで吸い上げるには、ポンプの吸込能力が8mであれば可能でしょう。逆に、吸込能力が6mしかなければ無理となります。
このことを、NPSHで示しますと、次のようになります。
ポンプ入口での吸込の場合、ポンプに吸込力が働くことにより、吸込がスムーズに行われます。「ポンプとしてこれだけの吸込力がないと、液がポンプに入ってから騒音・振動などが生じる恐れがありますよ」という吸込力の圧力つまり必要最低限のヘッドの値がNPSHreqです。
図3に示すように、NPSHreqは「小さいほど良い」ということになります。NPSHreqはポンプ固有の値で、ポンプメーカーが提示するべき値です。その数値は、ポンプの種類、構造、回転速度などによって決まる値で、ユーザーのポンプの使用方法(回転速度を除く)には依存しません。
ポンプユーザーは、メーカーから提示されたNPSHreqが、水換算ヘッドか移送液換算ヘッドかを確認する必要があります。NPSHavaと比較する場合、NPSHavaはJISなどでは移送液換算ヘッドですから、NPSHreqも移送液換算ヘッドである方が望ましいです。
一方、「ポンプのこの使い方では、これだけの吸込力がありますよ」という吸込力の圧力、つまり使用条件において得られるヘッドの値がNPSHavaです。NPSHavaも図3に示すとおり、「大きいほど安心」です。NPSHavaはポンプの使い方で決まるので、ポンプユーザーが使用状態から計算して求めることになります。
ポンプユーザーは、この2つのNPSHを比較して、この使用状態でポンプが問題なく運転できるか否かの判定ができます。たとえば、下記のようにNPSHavaがNPSHreqより大きい場合は、安心して使用できるということになります。
NPSHava > NPSHreq
逆に、下記のようにNPSHavaがNPSHreqより小さい場合は、騒音・振動などの発生が予想されるため、使用状態を見直して、NPSHavaを大きくする必要があります。
NPSHava < NPSHreq
NPSHavaを大きくするためには、下記のような使用状態の変更が考えられます。
今回説明してきた内容は一般的なケースでの移送可否判断ですが、移送液の液温や移送液の粘度も判断する際に考慮すべきポイントになります。これらについては次回の講義で説明します。
そろそろ時間ですね!最後にまとめをしておきましょう!!
次回は、具体的な例をあげて、一般的なケースと特殊なケースについて移送可否の判定を行う方法や、判定の際の留意点について説明します。