さまざまな産業において始まりつつある、IoT化、AI(人工知能)活用。
移送・搬送の現場への影響や技術トレンドについて、電子・機械系雑誌のジャーナリストであるエンライト代表:伊藤元昭氏がわかりやすく解説します。
近年、電子機器の性能や信頼性の向上を阻む、新たな技術要因が顕在化してきています。それは、電気回路・電子回路を構成する半導体チップやその他の電子部品で発生する“熱”です。
これからの機器開発において安定動作や寿命、機能・性能などの製品価値を最大化するためには、高度な放熱・冷却技術と、それらを効率的に組み込む生産技術が不可欠となってきています(図1)。
本コラムでは、技術開発の論点として急浮上してきた「熱マネジメント」の最新動向を紹介します。特に対応が進んでいるデータセンター、自動車、そして半導体を例に取り、新たな放熱・冷却技術や部材、生産技術を解説します。
スマートフォンで動画配信などを見ているとき、「本体が熱い」と感じたことがある人は多いのではないでしょうか。過剰に熱くなり、動作が遅くなった、バッテリーの減りが速くなったといった経験をしたことがある人もいることでしょう。こうした発熱とそれによって引き起こされる問題は、ほぼすべての電子機器で見られるようになりました。
電子機器の発熱は、内部の半導体などの電子部品が電力を消費し、その一部が熱エネルギーに変わって放出されることで生じます。機器の高性能化に伴い回路の大規模化・高速化が進むと、一般に、発熱量は大きくなります。最近では、AI処理や高速通信、情報量の多い画像の処理といった処理負荷の高い機能が多くの機器に導入され、発熱量が急増しています。
しかし、処理負荷が増える一方で、機器のサイズは据え置かれたままです。そのため、筐体表面から十分に放熱することができず、内部にこもる熱の量が増え続けています。
こうした発熱を放置すると、さまざまな問題を引き起こします。なぜなら、半導体やバッテリーなどの主要な電気部品・電子部品は、高温環境下では性能や安定性、信頼性が落ちてしまうからです。「自ら発熱するのに熱に弱い」という本質的に扱いづらい性質を持っているため、過度の高温環境下での動作を続ければ、誤動作や突然のシャットダウン、さらには機器寿命の短縮などを招く可能性が格段に高まります。
いまや、適切な熱マネジメントの導入は、あらゆる機器開発において大前提となりました。
そんななか、熱マネジメント技術の領域で最も先進的な動きを見せている分野がデータセンターです。AIやクラウドサービスの普及によって、データセンターはかつてないほど大量の計算処理を担う存在になりました。私たちが日常的に利用するサービスの裏側では、膨大な数のサーバーが24時間365日休まず稼働しています。
しかも、高性能GPUやCPUの導入が急増したことで発熱源も増加し、データセンターは「排熱との戦い」に直面しています。最新GPUは1チップで1000W以上、ラック単位では10万Wの電力を消費するため、万単位で並べて動かすサーバー群の発熱量は莫大です(図2)。これでは家庭用のパソコンのような放熱ファンでは太刀打ちできません。
そこで、強力な空調設備の導入だけでなく、発熱部品に冷却液を循環させる液冷システムや、サーバー基板を丸ごと絶縁性冷却液に沈めて冷却効率を高める液浸システムの導入が進んでいます。
しかし、こうした冷却システムの稼働にも莫大な電力が必要です。大規模データセンターでは、1カ所で原子炉1基分に相当する10億W(1ギガワット)の電力が必要になるとされています。本来のデータ処理だけでなく、機器を「冷やす」ことに膨大な電力を費やさなければならないという、大きなジレンマを抱えているのです。
こうした状況の深刻さから、これまでの常識を覆す放熱対策の導入が始まっています。まず、データセンターを北欧などの寒冷地に移して外気を効率的に利用する方法です。さらに、冷たい深海にデータセンターを沈める試みや、無限の空間に放熱し放題の宇宙空間にデータセンターを設置する計画が実現に向けて進められています(図3)。一見、冗談のような構想が登場するほど、発熱問題は深刻化しているのです。
また、電動化と知能化が急速に進む自動車も、データセンターと並んで、熱マネジメント技術が必要な代表的な分野です。特に電気自動車(EV)では、従来のエンジン車とは異なる視点での熱マネジメントが求められています。
EVは、大容量バッテリーや車載充電器、高性能GPU、AI半導体、インバーター、モーターなど、多数の高出力電気部品で構成されています(図4)。これらはすべて動作時に大量の熱を発生し、特に大電流による急速充電時にはバッテリー温度が急上昇します。温度管理が不十分であれば、性能低下や寿命短縮を招くだけでなく、安全性にも影響を及ぼすため、高度な冷却技術は不可欠です。
さらに近年は、自動運転技術や「SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウエア定義車両)」の普及によって、車内の計算処理量が急増しています。高性能GPUやAI半導体が搭載されるようになり、自動車は「走るデータセンター」とも呼ばれる存在になりつつあります。
しかし、自動車には限られた車内スペースしかないため、人の命を預かる重要な制御を行っているにもかかわらず、非常時用の代替システムを潤沢に導入することができません。このため、他分野に比べて高レベルな放熱・冷却システムが求められます。
こうした現状から、自動車メーカーを支えるTier 1(ティアワン)サプライヤー各社では、放熱・冷却システムの開発が急ピッチで進んでいます。液冷システムや冷却プレート、高性能熱伝導材料、ヒートポンプ技術など、効率的な熱マネジメント技術は車両性能を左右する重要要素となっており、この領域が各社の技術力の見せどころになっているのです。
ここまではデータセンターや自動車でのシステムレベルでの熱マネジメント技術の最前線を紹介してきましたが、これらを支える主要な発熱源である半導体チップそのものでも、放熱技術の高度化が進んでいます。
半導体分野では、チップ上に集積する素子の微細化と高集積化に加え、複数のチップを垂直に積み上げる「3D積層化」が主流になっています。これによって、消費電力と発熱密度が急上昇しています。従来の2D構造であれば、熱は上部へと逃げやすかったのですが、3D積層構造では中間の層で発生した熱が放出できないのです(図5)。
そのため、単にヒートシンクやファンで冷やすだけでは限界を迎えており、液冷システムやベイパーチャンバー(熱伝導性を上げる技術・しくみの一種)、高熱伝導材料などを組み合わせた高度な熱マネジメント技術が導入されるようになりました。
こうした変化に対応するため、高熱伝導グリースである次世代熱界面材料(TIM)や放熱シート、セラミックス基板など、熱を効率的に伝える新材料の開発、それらを機器内に実装するための製造技術にも高度化が求められています(図6)。
最新の電子機器において、熱マネジメント技術の重要性が急速に高まってきています。今回は、データセンターと自動車におけるシステムレベルの放熱対策、さらには主要発熱源となる半導体でのデバイスレベルの放熱対策の重要性と、対策の概略を紹介しました。これからは、家電やオフィス機器、産業機器など、さらに多様な領域でも熱マネジメントの高度化が進むことでしょう。
2026年8月公開
伊藤 元昭氏モーノディスペンサーは、電機・電子部品のさまざまな製造工程で活躍しています高精度な塗布・充填:モーノディスペンサー
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