技術コラムA教室ポンプの基礎知識クラス

【A-3b】
軸封装置(メカニカルシール)

ポンプの基礎知識のクラスを受け持つ、ティーチャー モーノベです。
今回はメカニカルシールの説明から始めます。

1. メカニカルシールの基本構造

メカニカルシールの基本構造は、スプリングなどによって軸方向に動くことができるシールリングと、動かないメイティングリング(またはフローティングシート)から構成されており、両リングの軸に垂直な摺動面がお互いに接触し、相対的に回転することによって、流体の漏れを最小限にする働きをするものです。(漏れを完全に止めるものではありません。)
軸と共に回転する方のリングを回転環、回転しない方のリングを固定環といいます。固定環とケーシング側部品との間のシール、回転環と軸(または軸スリーブ)との間のシールのことを二次シールといいます。

メカニカルシール構造図

2. メカニカルシールの構成材料

メカニカルシールは様々な種類の流体に使用されるため、その構成材料も多岐にわたっています。

主な構成材料

摺動材
カーボン、シリコンカーバイド(SiC)、超硬合金、酸化クロムコーティングなど
二次シール材
NBR、FKM、FFKM、PTFEなど
金属材
SUS316、チタン、ハステロイ®Cなど

3. メカニカルシールの形式

メカニカルシールでよく使われる形式の分類について説明します。

a. バランス形・アンバランス形

下の図で、Fcはシール流体(漏れを制限したい流体)の圧力によってメカニカルシールの摺動面が押し付けられる力、Foはシール流体が摺動面に入り込み摺動面の隙間を広げようとする力です。
A2(受圧面積)とA1(摺動面積)の関係がA2>A1の場合には、流体圧力がそのまま摺動面圧に影響するのに対し、A2<A1の場合には、摺動面圧に与える流体圧力の影響を軽減させることが出来ます。このA2とA1の比A2/A1をバランス比(B.V.)といい、流体圧力の影響を強く受けるB.V.>1のものをアンバランス形、圧力の影響が弱いB.V.≦1のものをバランス形といいます。一般にアンバランス形は低圧用、バランス形は高圧用に用いられます。

アンバランス形とバランス形の圧力分布

b. 回転形・静止形

スプリングなどによって軸方向に動くことのできるシールリングが軸と一緒に回転するものを回転形、シールリングが固定側に取り付けられているものを静止形といいます。

回転形は静止形に比べると径方向の寸法を小さくできますが、高速回転になるとスプリングが遠心力のために変形して作動が不安定になる恐れがあります。静止形はスプリングが遠心力の影響を受けないので、大軸径、高速、高粘度流体を扱うときに有利です。

c. インサイド形・アウトサイド形

摺動面の外周から内周に向かって流体が漏れようとするタイプをインサイド形、内周から外周に向かって漏れようとするタイプをアウトサイド形といいます。

インサイド形は漏れの方向が摺動面間の遠心力に対して反対方向となるので、密封条件的に有利となります。また、インサイド形では、摺動面周辺の流体が常に入れ替わるので、高濃度スラリーを扱うときに有利です。

アウトサイド形には、シール流体に接する部分が少ないので腐食性流体の場合に金属材が接液しない構造にしやすいという利点があります。

d. シングル形・ダブル形・タンデム形

シングル形は、メカニカルシールを1個で用いる方式を言います。
1組の摺動面で流体をシールする最も一般的に使用されている形式です。これに対してダブル形とタンデム形は、どちらもメカニカルシール2個を組み合わせて用いる方式です。

ダブル形は2個のメカニカルシールが反対方向を向いており、一般に2個のシールの中間に外部注入液(エクスターナル流体)を、シールしようとする流体の圧力より高い圧力で注入して用いられます。
ダブル形は有毒液や摺動面で固化してしまう液を扱う場合、あるいは高真空でシール部より空気を吸い込む恐れのある場合など特殊な用途に使用されます。

タンデム形は2個のメカニカルシールが同じ方向を向いており、一般に高圧用として用いられます。高圧側シールと低圧側シールとでシールしようとする流体の圧力を二分し、1個当たりの圧力負荷を低減するのに有効な形式です。
ダブル形やタンデム形では通常、エクスターナル流体の加圧や循環のための装置が必要になります。

各メカニカルシールの構造図

そろそろ時間ですね!最後にまとめをしておきましょう!!

本稿のまとめ

  • メカニカルシールは、用途に応じて様々な形式のものが使用されている。
  • メカニカルシールは、漏れを最小限に制限する働きをする装置であって、漏れを完全に止めるものではない。

次回は、ポンプで使用されるもう一つの代表的なシール方法である「グランドパッキン」について解説することにいたしましょう!

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