F1メカニックとして世界を渡り歩き、
第一線でその腕を振るってきた津川哲夫氏。
彼が経験上痛感しているのは、
いつの時代もどの地域でも「オリジナルである」ことの強さ。
『オリジナルなものづくり』を追求する企業姿勢に共鳴し、
今回のヘイシン探訪が実現した。
ご案内するのはヘイシンの杉野祥弘と生田楓。
技術部の杉野はモーノディスペンサーの「育ての親」のような存在で、
主に自動車・食品業界に明るい。
生田は新卒2年目のヘイシン「ものづくり」広報ガール。
さて、どんな話が始まりますか。
本日は、滋賀事業所にお越しいただきありがとうございます。
いやいや、こちらこそどんなものを見せていただけるか楽しみです。
津川さんはポンプに対してどんなイメージをお持ちですか。
ポンプっていやぁ、圧力で液体を吸い上げるものでしょ。まずは井戸水を汲み上げる手押しポンプをイメージするねぇ。
そうですよね、一般的なポンプのイメージって。
ポンプにもいろいろあるんです。うちが扱っているのは「一軸偏心ねじポンプ」というもので、これはちょっと特殊なんですよ。
イチジク? 変身? 聞いたことないなぁ。
ではご説明しますので、さっそく工場にご案内しましょう。
なんか、ドキドキするね。
こちらが一軸偏心ねじポンプの構造モデルです。
これがポンプなの!? 確かに「ねじ」だ。
製品名はモーノポンプです。雄ねじをローター、雌ねじをステーターと呼んでいます。ちょっと動かしてみましょうか。
おぉ!なるほど、ローターがステーターの中で偏心回転するんだ……ということは液体はこの隙間に入っていくのかな?
そのとおりです。ローターとステーターの間にある密閉空間をキャビティーと呼んでいますが、これがモーノポンプの真骨頂です。
ローターが回転すると新しいキャビティーができ、その時に吸引力が発生して液体が中に入っていきます。ローターの回転に合わせてキャビティーは吐出側へ移動し、中の液体も一緒に移送される仕組みです。
なるほど、よく考えられている。だけどさ、ローターとステーターはよほど精密に加工されていなきゃならないよね。シール性も必要だし。
ご明察。詳しい加工方法は津川さんにも内緒です。
残念! ぜひ作ってるところを見たかったなぁ。それにしても不思議な形だねぇ。
この構造だからこそ他では対応が難しい液体も移送できると言って良いかもしれませんね。
たとえばどんな液体?
水みたいにさらさらの液体はもちろん、蜂蜜、ジャム、整髪ジェル、接着剤、あとは味噌なんかも送っていますね。しかも脈動なく。
お味噌って、液体じゃないじゃない!
吸引力が非常に強いので、味噌のように流動性のほとんどないものも難なく移送できるんですよ。
そりゃすごいや。脈動がないっていうのは?
井戸のポンプしかり、世の中には吐出時に脈動する構造のポンプが多いんですが、モーノポンプは無脈動・定量なんです。
回転しているローターとステーターを輪切りにすると、どこで切っても、どの瞬間でも、キャビティーの断面積が一定になります。だから……
出てくる液体の量も常に一定ってわけだ! なるほど!
いろんな液体を脈動なく定量移送できることから、食品、化学、化粧品、電機、自動車など様々な業界で活用されています。
えっ、自動車も?! 一応クルマの仕事をしてきた僕でさえ知らなかった……。あっ!そうか。接着剤か!
そうなんです。モーノポンプと同じ構造のモーノディスペンサーという製品がありまして、ロボットアームの先端に装着して、接着剤やシール剤を正確に塗布する用途などに使われています。
いやぁ、僕のイメージしていたポンプとは大違いだよ。ほかにも応用できる分野がたくさんありそうだ。考えるのが楽しくなってきたぞ。
モーノポンプはお客様のニーズによって進化してきました。津川さんの提案があればまた進化できるかもしれませんね。