技術コラムA教室ポンプの基礎知識クラス

【A-7b】
ステンレス鋼について

ポンプの基礎知識のクラスを受け持つ、ティーチャー モーノベです。
今回はステンレス鋼について、掘り下げて説明したいと思います。

ステンレス鋼の耐食性について

ステンレス鋼は高い耐食性を有するため、多くの環境で用いられる金属です。ステンレス鋼が耐食性に優れ、錆びにくいのは、鉄(Fe)に添加したクロム(Cr)が空気中の酸素と結合して、ステンレス鋼の表面に薄い酸化皮膜(不動態皮膜)を作り、内部までの錆びや汚れの進行を防ぐためだと言われています。

この皮膜は100万分の3mm程度のきわめて薄いものですが、ステンレス鋼が置かれている環境において、自然に生成され、切り傷など破壊を受けても、酸素さえあればただちに酸化皮膜を再生して元通りの働きをします。また、鉄(Fe)に添加するクロム(Cr)の量を10.5%以上に増やし、さらにニッケル(Ni)やモリブデン(Mo)などを加えると酸化皮膜の働きが強化され、耐食性が向上します。

ステンレス鋼は金属組織によって、いくつかの系統に分類され、また、同じ分類でも添加物の含有量で耐食性は異なります。

ステンレス鋼の種類について

ステンレス鋼はその金属組織によって、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト・フェライト(二相)系、析出硬化系の5種類に分類されます。

1.オーステナイト系ステンレス

オーステナイト系ステンレスは最も種類の多いステンレス鋼で、クロム(Cr)とニッケル(Ni)の含有量が多いことから、耐食性、耐熱性に優れます。耐食性、加工性、溶接性などは他のステンレス鋼と比べ最も優れますが、焼入硬化性がないため、強さや硬さの面では他種に劣る部分や欠点もあります。ただ総じて優れた性質を発揮するため、用途や利用領域が広いステンレス鋼といえます。

添加元素のバリエーションも豊富で、多種多様なオーステナイト系ステンレスがあります。代表例として、SUS304やSUS316、SUS316Lなどがあります。

SUS304は食品設備や一般の化学設備などに用いられることが多く、SUS316はモリブデン(Mo)を添加することでSUS304に比べてさらに耐食性を向上させている材料です。SUS316Lの『L』はLow Carbonの意味で316の炭素量を少なくした材料です。ステンレス鋼を約500~800℃に加熱すると結晶粒界にクロム炭化物(Cr23C6)が析出し、粒界腐食により耐食性が悪化しますが、炭素量を減らすことで、耐粒界腐食性を向上させています。溶接などで加熱されない場合(機械加工のみ)においてはSUS316とSUS316Lの耐食性は同等と考えることができます。

ステンレス鋼、SUS304とSUS316とSUS316Lの違い

単位%
含有成分CSiMnPSNiCrMoCuN
SUS3040.08
以下
1.00
以下
2.00
以下
0.045
以下
0.030
以下
8.00~
10.50
18.00~
20.00
---
SUS3160.08
以下
1.00
以下
2.00
以下
0.045
以下
0.030
以下
10.00~
14.00
16.00~
18.00
2.00~
3.00
--
SUS316L0.030
以下
1.00
以下
2.00
以下
0.045
以下
0.030
以下
12.00~
15.00
16.00~
18.00
2.00~
3.00
--

2.マルテンサイト系ステンレス

マルテンサイト系ステンレスは、他の鉄鋼材料のように焼き入れをすることができ、焼き入れによって硬化させることができます。耐食性は他の系統のステンレス鋼よりも劣る傾向にありますが、硬く耐摩耗性に優れることから、工具、ノズルなどに使われるSUS420J2が代表例として挙げられます。

単位%
含有成分CSiMnPSNiCrMoCuN
SUS420J20.26~
0.40
1.00
以下
1.00
以下
0.040
以下
0.030
以下
0.60
以下
12.00~
14.00
---

3.フェライト系ステンレス

フェライト系ステンレスは、オーステナイト系と同様に焼入硬化性がありません。また磁性があるため、磁石につくのが特徴です。

一般的にはマルテンサイト系よりクロム(Cr)の含有比率が高いので、マルテンサイト系よりも耐食性は優れますが、オーステナイト系よりは劣ります。溶接性も良く、また軟質で延性に富んだ材料でもあります。

ニッケル(Ni)を含まない鋼種のため、硫黄(S)を含むガスに対して耐高温腐食性が優れています。また、オーステナイト系の欠点でもある塩化物応力腐食割れが発生しないという利点があります。価格や加工性の面では優れており、業務用の厨房設備などに良く用いられるSUS430が代表として挙げられます。

単位%
含有成分CSiMnPSCrMoNAl
SUS4300.12
以下
0.75
以下
1.00
以下
0.040
以下
0.030
以下
16.00~
18.00
---

4.オーステナイト・フェライト(二相)系ステンレス

オーステナイト・フェライト系ステンレスは二相合金とも言われ、オーステナイト組織とフェライト組織が共存したステンレス鋼です。窒素(N)、モリブデン(Mo)を添加することで、耐食性を向上させています。

二相系の最大の特徴は、オーステナイト系のように高い耐食性を持ちながらも、オーステナイト系の欠点である耐海水性、耐応力腐食割れ性に優れ、強度が高いという点が挙げられます。フェライト系の組織も持つため、磁性もあります。海水熱交換器・製塩プラントに使われるSUS329J4Lがあります。

単位%
含有成分CSiMnPSNiCrMoN
SUS329J4L0.030
以下
1.00
以下
1.50
以下
0.040
以下
0.030
以下
5.50~
7.50
24.00~
26.00
2.50~
3.50
0.08~
0.30

必要によって表以外に銅(Cu)、タングステン(W)又は窒素(N)のうち、一つ又は複数の元素を含有してもよい。

5.析出硬化系ステンレス

析出硬化系ステンレスは、銅(Cu)を添加することで、熱処理によって高硬度となるステンレス鋼です。元来、焼き入れによって硬化できないオーステナイト系ステンレスを熱処理によって強さや硬さを強化できるように改良した鋼種です。オーステナイト系には及びませんが、優れた耐食性を持っています。シャフトやタービン部品などに用いられるSUS630があります。

単位%
含有成分CSiMnPSNiCrCuNb
SUS6300.07
以下
1.00
以下
1.00
以下
0.040
以下
0.030
以下
3.00~
5.00
15.00~
17.50
3.00~
5.00
0.15~
0.45

以上が代表的なステンレスの種類と含有成分です。一般的にステンレス鋼と呼ばれる材質も様々な特徴があり、用途に合わせて使い分ける必要があります。ステンレス鋼は錆びにくい材質ですが、それでも用途を間違えば腐食は顕著に進行してしまいます。その点については次号にて紹介したいと思います。

そろそろ時間ですね!最後にまとめをしておきましょう!!

本稿のまとめ

  • ステンレス鋼にも様々な種類がある。
  • ステンレス鋼の種類によって耐食性・強度などの特徴が大きく変わる。
  • ステンレス鋼は用途に合わせて使い分けが必要である。

次回は、「ステンレス鋼の腐食形態」について、説明する予定です!

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