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技術コラムIoT・AIIoT・AIで変わる
「送る&運ぶ」

さまざまな産業において始まりつつある、IoT化、AI(人工知能)活用。
移送・搬送の現場への影響や技術トレンドについて、電子・機械系雑誌のジャーナリストであるエンライト代表:伊藤元昭氏がわかりやすく解説します。

第8回 ものづくりのDXで、現場の仕事はどう変わるのか?②

デジタル化技術を駆使した、仕事の進め方や価値の生み出し方を根本的に刷新しようとする「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が、さまざまな業界で行われるようになりました。そして、その流れは日本のものづくりの現場にも着実に押し寄せつつあります。第7回ではDXの意義と重要性などを紹介しましたが、今回は、効果的なDXを実践していくためのシナリオと手法について解説します。


日本での製造業のDXは、少子高齢化時代の労働力不足を見据えて、属人的な知見やスキルに頼ることのない、かつ競争力の高い生産ラインを目指した取り組みが多いという特徴があります。生産現場では、臨機応変に対応すべきさまざまなことが起こります。例えば食品工場では、季節や気候の変化によって生産条件やレシピを調整する必要があるでしょう。同様に他の業種の製造工場でも、日々諸々の対応を求められます。また、たとえ同じ製品を作り続ける単品種生産ラインであっても、製造装置の劣化による故障や消耗費の補充、徐々にずれていく生産条件の調整などに対応しなくてはなりませんし、これが多品種の製品を生産している工場ともなれば、対処すべきことはグンと増えてきます。

こうした一つひとつの対応・調整作業は、“現場力”と呼ばれる、現場の経験豊富なオペレーターやエンジニアの判断力と対処能力に委ねられています。日本の製造業において人材は国際競争力の源泉であり、現場に優秀な人材が少なくなれば当然のように競争力は低下してしまいます。工場の稼働を維持することすらできません。だからといって、海外から人材を集めることは簡単ではなく、根本的な業務改善が必要になっているのです。

「見える化」「最適化」「自動化」「自律化」、4段階で進めるDX

製造業のDXでは、現場の判断力と対処能力を、IoTやAIを駆使したITシステムへと段階的に移植していきます(図1)。もちろん、製造に関わる業務や作業を一度にDXの対象にできればそれに越したことはありません。しかし、前回お話ししたように、単なるITシステムの導入ではDXが効果を発揮することはありません。業務フロー、組織、価値観まで同時に改革していく必要があります。長年慣れ親しんだ仕事の進め方を一度に変えてしまうことは困難ですから、使い手側が慣れていくために「スモールスタート」で段階的に改革を進めていく必要があるのです。

図1 現場力をITシステムで資産化
出典 Adobe Stock

製造業のDXには、ITシステムによってラインとそこで働く人の動きを「見える化」する第1段階、ラインの稼働条件や人の配置などを「最適化」する第2段階、これまで人が行っていた作業を「自動化」する第3段階、ITシステムがラインの状況を判断して臨機応変に対処する「自律化」した第4段階と、4段階で徐々に属人的な能力に依存する度合いを減らしていく手法があります(図2)。それぞれの段階で、人とITシステムの役割分担が変わってきます。その変化について、少し詳しく見てみましょう。

図2 属人的なスキルをITシステムへと4段階で移行
出典 筆者が作成

まずは、「見える化」を目指す第1段階。この段階では、ライン上の製造装置や搬送機などにIoTセンサーを取り付け、製品の製造条件、装置の挙動や状態、製品の加工経過や仕上がりなどを判断するためのデータを収集します。そのデータを集約し、解析することによって、ライン上で発生したムダな時間や品質低下を招く要因などをあぶり出し、改善に向けた対処法を探るために利用します。

一般に、工場にはさまざまな機械が置かれているので、得られるデータは膨大になります。情報の洪水の中に紛れている見えにくい傾向も、ビッグデータ解析やAIを活用すれば見つけ出すことができます。見える化する対象として、現場の人の動きをカメラなどで検知し、ムダのないベテランの動きと比較しながら、生産性向上に活用している企業もあります。この段階では、ライン上の作業を改善するヒントを得るためにITシステムを活用し、作業手順の変更などの改善方法の検討や実際の改善活動は、人が行います。

次は、ITシステムによる「最適化」を目指す第2段階です。この段階では、見える化によって判明した、ラインに潜むムダや装置の故障の前兆、さらには品質低下の要因などに対処するための方法を、ITシステムを使って導き出します。つまり、対処法の策定を自動化するわけです。

多様な機械や人が生産に関わっているラインでは、一つの装置の稼働条件を変える際に、周辺工程に関わる装置や人の動きも連動して調整しなければならない場合がよくあります。ベテランであれば臨機応変に対応できるかもしれませんが、誰もがそんな機転を利かせられるわけではありません。そこで、ITを使って最適な調整方法を導き出そうと言うわけです。ただし、複雑なラインの稼働条件の最適解をITシステムで求めるのは簡単なことではありません。だからこそ、この第2段階でクラウド上の高性能なコンピューターを利用するケースが多く、将来を見据えて人智を超える計算能力を持つ量子コンピューターを活用しようとする動きも出てきています。

ラインへの目配りから突発的出来事への対処までシステム化

システムを「自律化」させる第4段階まで来れば、究極的には工場の完全無人化も視野に入ってきます。そして、ITシステムによる「自動化」を推し進めるのが、第3段階です。この段階では、ラインを理想的に稼働させることを前提に、必ずしも人間が行う必要のない作業や機械に任せた方が効率的な工程を見つけ出し、自動化します。

例えば、多品種小ロット生産のラインでは、生産品目に応じて必要な部品を必要な数だけ作業場に搬送する工程があります。その際、部品棚からのピッキングや各作業場への搬送を自動化できれば、その分の人手をほかの工程に回すことができます。

最後に、システムを「自律化」させて安定生産を目指す第4段階です。この段階では、ライン上の装置の状態や生産状況、製品の仕上がりなどを常にモニタリングしながら、ITシステムによって、最も効率良く、安定して高品質な製品を作り出せる生産条件へと自動で調節します。そのほかにも、消耗品の交換が必要な状態をセンサーで検知したら、予め指定しておいたサプライヤーに発注するといった利用法も考えられています。つまり、ラインへの目配りから、起きていることの判断、対処法の策定、実施までをすべてシステムで行うというものです。ここまで来れば、究極的には工場の完全無人化も視野に入ってきます。

一般に、人間よりもITシステムの方が、迅速で安定した判断や作業が可能です。しかも、人間では対処し切れないような、複雑なラインで起こった問題にも対処することができます。もちろん、どこまで行っても人間でなければ判断できないこと、対処できない事態はあります。逆説的ですが、こうした「人間の手を最終手段として借りるべき」部分を的確に見出していくことが、自律化を成功させるためのポイントになるようです。

DXの適用範囲も段階的に広げていく

ここまでは、製造業のDXでは、人間に代わってITシステムが関与する仕事を段階的に増やしていくという進化のシナリオを解説しました。DXの発展には、別の観点からの段階的改革を考える動きもあります。特定の装置を中心に置いた「工程内」でのDXから、「工場やライン全体」「企業全体」「サプライチェーン全体」のDXへと段階的にDXの適用範囲を広げていくシナリオです(図3)。ITシステムの関与の度合いを高めるシナリオを優先するのか、適用範囲を広げるシナリオを優先するのかは、各製造業企業の戦略によります。

図3 DXの適用範囲を段階的に拡大
出典 筆者が作成

特定の装置だけを対象にして、データを収集し、状態を見える化するだけでも、現場の作業効率は高まることでしょう。データを解析して故障の兆しを察知できれば、ラインの突発的な停止を防ぐこともできます。しかし、前述したような生産性を落とす要因の発見や、工程間での生産条件の調整などを行うためには、DXの適用範囲をライン全体にまで広げる必要があります。

さらに進んで、製品の設計データを基にして、より効率的な生産条件を自動算出し、自動設定することができれば、生産性はさらに向上することでしょう。実際に、機械加工や電子デバイスの生産において、こうした試みが行われています。このような開発・生産体制が整えば、市場のニーズの変化に応じて、従来よりもキメ細かい製品の仕様変更ができるようになり、商機を逃さないしなやかなビジネスを展開できます。そのためには、企業全体を対象にしたDXが欠かせません。

日本の製造業が明日も輝いていくためには、世界の動きを見据えながらDXを進めていく必要があるのではないでしょうか。そして、材料や部品の供給から、製品を出荷した後の物流や小売、アフターサービスなどを含めたサプライチェーン全体をDXの対象にすれば、さらに安定した高付加価値なビジネスを展開できるようになります。例えば、災害などでサプライチェーンが寸断されても、迅速に代替部品を調達できるようにすることができるでしょう。また、アフターサービスとして、部品やソフトウエアの入れ替えによるアップグレードなどもできます。実際、電気自動車で有名なアメリカのTesla, Inc. など先進的なメーカーは、こうした方法で市場投入後の製品の機能を向上させています。

冒頭でお話ししたように、日本での製造業のDXは、少子高齢化といった社会課題に対応することを目的として進められています。しかし、単にそれだけを目的にしたのではもったいない、極めて重要な取り組みです。海外企業、欧米だけでなく中国をはじめとする新興国のメーカーは、生産性のさらなる向上や新たなビジネス価値の創出を目指してDXに取り組んでいます。日本の製造業が、世界の中で明日も輝いていくためには、今始まったDXの取り組みを世界の動きを見据えながら進めていく必要があるのではないでしょうか。

まとめ

製造業のDXでは「見える化」「最適化」「自動化」「自律化」という4つの段階を経て、属人的なスキルをITシステムへと移行していきます。また、特定の装置を中心に置いた「工程内」でのDXから、「工場やライン全体」「企業全体」「サプライチェーン全体」のDXへと適用範囲を広げていくことで、さらに安定した高付加価値なビジネスを展開できるようになるでしょう。

PROFILE
伊藤 元昭氏
株式会社 エンライト 代表
技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、コンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動などを経て、2014年に独立して株式会社 エンライトを設立。

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