技術コラムB教室ポンプの周辺知識クラス

【B-3c】
インバーターの基礎知識(Ⅲ)

ポンプの周辺知識のクラスを受け持つ、ティーチャーサンコンです。
第3回目はインバーター駆動の特長についてご説明します。皆さんついてきてくださいね。

インバーター駆動の特長

インバーター駆動の特長は、省エネであるとともに豊富なアプリケーション機能を利用できる点です。

1.省エネ

インバーター駆動では、負荷が必要とする電力に見合った必要最小限の電力が供給されることから、電力の損失が少なく省エネルギーの運転ができます。例えば、図1は送風機制御に関する4つの方式(吐出側ダンパー制御(※)、吸込側ダンパー制御(※)、伝達動力可変制御(※)、インバータ制御)の所要動力の例を示したものです。

図1 送風機制御における必要動力比較

吐出側ダンパー制御や吸込側ダンパー制御はダンパーの角度調整によって風量を制御する方式であり、仕事量の目安となる風量が下がっても、送風機(モーター)の回転速度はほとんど変わらないことから所要動力もほとんど減少しません。

図2 ダンパー制御と伝達動力可変制御の説明図

ダンパー制御とは:上図のように送風機の風量調整のために、吐出側もしくは吸込側に設置されるダンパー(絞り弁のようなもの)で風量を加減する方法です。

伝達動力可変制御とは:上図のように送風機の風量調整のために、送風機に渦電流継ぎ手式モーターを接続し、送風機の回転速度を調整することにより風量を加減する方法です。

伝達動力可変制御は渦電流継ぎ手式モーターを送風機に接続して送風機の回転速度を調整して風量を制御する方式ですが、渦電流継ぎ手式モーターは一定速度のモーターの回転を渦電流継ぎ手で滑らせて変速する方式であり、送風機の風量が下がってもモーターそのものの速度変化は少ないところから所要動力はあまり低下しません。

一方、インバーター制御は送風機に直結されたモーターそのものの回転速度をインバーターによって調整することによって風量を制御する方式であり、風量の低下に伴い必要動力が大幅に低下し理想曲線に近いことがわかります。理想曲線とは効率100%の可変速装置で運転したときの所要動力を示す曲線です。つまり、インバーター制御ではモーターそのものの回転速度を効率よく変化させることができるので、モーターに流れる電流はほぼ一定でも、回転速度が低くなるとモーターの必要な電圧が下がることで動力が減り、省エネとなります。

一方、図3はモーター容量ごとの、それを駆動する「インバーター効率」とモーター効率を含む「総合効率」を示した図です。モーター容量が小さいところではインバーター及びモーターの効率は低下しますが、容量が大きくなるとインバーター効率は90%以上、総合効率でも80%以上となり、駆動装置としてはかなり効率が良いことがわかります。

図3 モーター容量に対する「インバーター効率」と「総合効率」

2.アプリケーション機能

初回のインバーターの基礎知識(Ⅰ)の「モーター回転速度の制御」のところで説明したように、モーターの回転速度は周波数にほぼ比例します。従って、モーターの回転速度はインバーターへの速度信号等(例えばDC0~10VやDC4~20mA等)により、電気的にほぼ無段階かつ簡便に設定・制御できます。制御速度の範囲もインバーター専用定トルクモーターを使えば、一般的に速度比1:20程度と広範囲となります。

これは、サーボモーターを除いて、他の可変速装置の制御速度範囲を大幅に上回っています。またほとんどのインバーターには、目的や用途に合わせて出力周波数を制御する豊富なアプリケーション機能が内蔵されています。

例えば、いくつかの入力信号の切り替えによって予め決められた速度で運転する「多段階速度機能」、時間の経過とともに予め設定した動作内容に従って運転する「プログラム運転機能」、運転状況に応じて制御できるフィードバック制御の一種である「PID制御機能」などの機能があります。インバーターはそれらの機能を含めて対象となる機械の運転に合わせて最適な方法を選ぶことができ、しかも構成がシンプルです。下記に代表的な3種の制御機能について説明します。

【多段階速度機能】

多段階速度機能は、インバーターへ入力する信号の切替に対応して、段階的に出力周波数を変更する機能です。例えば、図4のように3種類の信号「A」・「B」・「C」を入力する場合、その組合わせはA、B、C、A+B、A+C、B+C、A+B+Cの7種類のパターンがあります。予め「A信号の周波数は60Hz」のように設定しておけば、入力信号を変更することによって7種の出力周波数に変更することができます。

この機能は、従来の極数変モーターの速度切替より速度が任意に設定できるという点で柔軟性があり、速度は連続的ではありませんが、アナログ信号が不要なので、低速でもノイズの影響を受けない運転が可能です。

オフィスビル等で、1週間サイクルの時間帯について入館人員の変動が予めわかっているような場合の空調制御等に最適です。例えば空調用ファンの必要な風量(回転速度)比を低速、中速、高速の3段階とし、スケジュールタイマー等の信号により、時間帯によって切替を行なうといった制御が容易に行えます。

図4 多段階速度制御の例(接点信号の組み合わせで予め設定した速度となる)

【プログラム運転機能】

プログラム運転機能は、パラメーターにモーターの回転方向(正転/逆転)、周波数、運転時間等の運転パターンを予め設定しておくことで、設定した運転パターン通りに運転される機能です。図5のようにNO.1の設定であれば、正転、20Hzで1時00分から運転することになります。

必要な運転パターンを設定しておけば、設定通りの動作内容で運転させることができます。多段階速度機能は、運転パターンを設定する必要がありますが、プログラム運転機能は自己完結的で外部装置との接続が不要になる利点があります。上記「多段階速度機能」の例で、スケジュールタイマーのような機器が無い場合に有効です。

No.動作内容パラメーター設定内容
1正転・20Hz 1時00分Pr.201=1.20,1:00
2停止 3時00分Pr.202=0. 0,3:00
3逆転・30Hz 4時00分Pr.203=2.30,4:00
4正転・10Hz 6時00分Pr.204=1.10,6:00
5正転・35Hz 7時30分Pr.205=1.35,7:30
6停止 9時00分Pr.206=0. 0,9:30

図5 プログラム運転の例

【PID機能】

PID機能は、フィードバック制御の一種で、出力値を、目標値と入力値の偏差(比例動作:Proportional)、その積分(積分動作:Integral)及び微分(微分動作:Differential)の3つの要素で計算して決める制御方法です。

「多段階速度機能」や「プログラム運転機能」は、予め設定した速度での運転や運転内容しかできませんが、PID機能は、リアルタイムに現状の運転状況のフィードバックを受けながら演算を行い、その結果に応じて出力値をリアルタイムに変更できる特長があり、前述の2つを更に発展した機能と言えます。

例えば、図6のように圧力検出器のようなセンサーからの信号で、ポンプの回転速度を制御するといった場合はよくありますが、インバーターのPID機能を利用すればPIDコントローラーを設置することが不要となり、制御システムの構成をシンプルにできます。インバーターのアプリケーション機能を有効に活用したケースと言えます。

図6 PID機能の例

そろそろ時間ですね!最後にまとめをしておきましょう!!

本稿のまとめ

  • インバーター駆動の特長は省エネにつながること。
  • インバーターには種々のアプリケーション機能、例えば「多段階速度機能」「プログラム運転機能」「PID機能」などがあり、目的に応じて最適の機能を選択できること。
  • インバーター内蔵機能を利用することにより外部のコントローラーが不要となり、コンパクト化やコストダウンが図れること。

次回は、インバーターの問題点のひとつである「高調波」とその対策についてご説明します。

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