メカニカルシールのドライ運転は厳禁

メカニカルシールは、軸と一緒に回転する回転環と、回転しない固定環とが軸に垂直な面(摺動面)で接触して摺動していて、ここで内部の流体が漏れ出すのを制限しています。ポンプの場合、回転環の摺動面と固定環の摺動面との間には、移送液または外部から注入する液体でごく薄い液膜が形成され、摺動面の潤滑をしているのです。
何らかの理由でドライ運転となって摺動面が潤滑不良になると、摺動面の早期摩耗や摩擦熱による摺動面の損傷などのトラブルが発生するおそれがあります。

ドライ運転が起こりやすい条件

下の無注水、無給油メカニカルシールの図1で説明します。
緑色の部品が回転環(フローティングシート)、青色の部品が固定環(シールリング)です。回転環はドライブシャフトと一緒に回転しますが、サポートハウジング側の固定環は回転しません。回転環と固定環の接触している面がメカニカルシールで最も重要な摺動面です。

図1 無注水、無給油メカニカルシール

通常は、移送液側の方が大気側より圧力が高いので、摺動面の間には微量の移送液が入り潤滑をしていますが、次のような場合に摺動面が乾燥に近い状態となりドライ運転となります。

  1. 移送液の圧力が負圧のとき
  2. メカニカルシールのまわりに空気やガスが溜まっているとき
  3. その他、摺動面が異常に強く押し付けられているときなど

ドライ運転を防ぐには

移送液の圧力が負圧のとき

メカニカルシールがポンプの吸込側にある場合、

  1. 吸込側の液面がポンプの位置より低いとき
  2. 吸込バルブが閉じているとき
  3. 吸込配管が詰まっているとき

このようなときにケーシング内の移送液の圧力が負圧となります。移送液側が負圧になると、摺動面間には大気側から空気が入り込む方向になり、摺動面が乾燥してドライ運転となります。

常時または頻繁に移送液の圧力が負圧になるときは、対策として清水、タービン油などを摺動面の大気側に注入(クエンチング)することで、摺動面に空気が入り込むのを防ぐことができます。下のクエンチング方式メカニカルシールの図2で、橙色の部分が注入された清水、タービン油などを示します。

図2 クエンチング方式メカニカルシールとオイルポット

クエンチングではタービン油を封入するオイルポット方式が良く用いられますが、ケーシング内が負圧の場合はポット内の液体が移送液に混入する可能性があるので、ポット内には移送液と混じっても支障のない液体を入れます。

メカニカルシールのまわりに空気やガスが溜まっているとき

ケーシング内で、メカニカルシールのまわりに空気やガスが溜まると、摺動面付近に移送液がなくなってドライ運転となることがあります。空気を大量に含んだ液体や、ガスを発生しやすい液体を移送する場合には注意が必要です。
このような場合の対策としては、運転前にケーシング内のエア抜きを十分に行います。また、運転中に移送液から空気やガスが発生する場合は定期的にエア抜きを行います。エア抜きとあわせて上で述べたクエンチングを行うことも有効です。

その他

メカニカルシールがポンプの吐出側にある場合に、

  1. 吐出バルブが閉じていてケーシング内の移送液の圧力が異常に高くなったとき
  2. 組立不良などでメカニカルシールのスプリング荷重が過大になったとき
  3. このようなとき、摺動面が異常に強く押し付けられてドライ運転となることがあります。

ポンプ組立時のメカニカルシール取付位置の確認や、運転前の配管系統の確認を行うとともに、運転中の吐出圧力などに異常がないか注意します。
メカニカルシールのドライ運転は、摺動面の早期摩耗や損傷の原因となります。ポンプの運転開始前にメカニカルシールに移送液が充満していることを確認するとともに、運転中、メカニカルシールに異常音や異常発熱がないか注意してください。また、ポンプの使用条件や移送液の性質に合わせて上述の対策を行ってください。

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